大麻の未来を想う

カナダで嗜好目的での大麻の使用及び販売が合法化され1年以上が経過し当時とは様々な事が変わった。

ユーザー目線で見れば合法化当初によく聞かれた商品の供給不足の問題も原因が明らかになり対応が進んだお陰で解消したようだ。

マーケットに参入する企業も日に日に増えてきており商品選択の幅も少しづつ広がっている。

また昨年の2019年末からは「合法化 2.0」の名の下にエディブル、べイプカートリッジなどの販売も始まった。

頻繁に変わり続けるカナダのカンナビス法はさらに多くの人、企業の大麻ビジネスへの参入を容易にしている。

ではカナダの大麻合法化は正しい方向へと進んでいて数年後には理想的なマーケットが出来上がっているのだろうか?

実際にマーケットに関わる中で実は僕の中で少しづつ懸念の様なものが生まれ出している。

合法化前に多くの人が思い描いていたマーケットとは大きく違う方向に向かっている可能性を感じるのだ。

今回は現在の問題点を明らかにし将来の大麻ビジネスがどう展開していくのかを考えてみたいと思う。

余剰在庫

まずは上のグラフに注目して欲しい。

このグラフは僕もTwitter上で何度か紹介した事があるのだが、合法化から昨年2019年の夏までのカナダ国内の合法大麻の在庫と販売状況を示したグラフだ。

濃い緑と薄い緑の棒グラフだがこれは在庫業況を表している。

濃い緑が既に州政府の検査チェックが終わりいつでも出荷できるようになっている大麻製品で、薄い緑はまだ検査待ちで出荷する事が出来ない在庫である。

そして図の下部にある黒い折れ線グラフは売り上げを示している。

まず最初に気が付くのは売り上げの伸び率に対し生産量が急激に増えている事。

しかしこれはこのグラフの示す期間の数か月後のエディブル、オイルの合法化の為にLPが生産量を増やしたという事が予想できる。

ここで何より問題なのは検査の終わっていない大麻製品の在庫状況だ。

生産量を増やしたはいいが州政府の検査の効率は上がっておらず結果として生産者が更に多くの在庫を抱える状況になってしまっているのだ。

特に状況が酷かったオンタリオ州では大量の在庫を抱えた企業とその投資家たちが州政府に意見し、それが次のパラグラフで紹介するマーケットの変化へと繋がっていく事になる。

販売ライセンスの未来 (ディスペンサリー)

それでは一体どの位の販売業者がいるのだろう?

ライセンスに関する規則は連邦政府によって管理されているのだが、店舗のローケーション、数などに関する判断は州政府及び各自治体に委ねられている。

ではまず首都トロントがあるオンタリオ州を例に挙げてみてみよう。

オンタリオ州では現在ディスペンサリーの営業に必要な販売ライセンスは24件発行されている。

その24件のライセンスは2018年の合法化以降に2度行われた抽選システムによって選ばれている。

しかしその24件全てが既に営業している訳でもなく、2019年末の時点でまだ営業を開始できていない店舗も少なくはない為、カナダ最大の州であるオンタリオのユーザーのニーズは満たされていない。

そこへ更に先に述べた州の検品遅れにより出荷が出来ないという状況が加わり、遂にオンタリオ州では今年2020年の1月に販売ライセンスの数の上限が撤廃され、条件を満たし自治体の許可が得られれば誰でもライセンスが取得できるというシステムに変わったのだ。

先日のニュースによるとその影響で今年に入ってから多くの申請があり既に700件が審査待ちという状態になっており、それらも条件さえ満たしていれば全て許可が下りる事になっている様だ。

またオンタリオ州の議員Doug Fordによると最終的にオンタリオ州のディスペンサリーの合計数は、カナダの他州のディスペンサリーを合計した数より多くなるとの事だ。

現在すでにアルバータ州では400件以上のディスペンサリーがある事などを考慮すると将来カナダにはかなり多くの販売店が存在する事になるだろう。

https://www.bnnbloomberg.ca/they-didn-t-have-supply-ready-doug-ford-fires-back-at-pot-execs-1.1382204

引用 : BNN Bloomberg

生産者ライセンスの未来 (グロワー、農家)

嗜好目的の大麻を生産するには政府が発行するCultivation License(生産者ライセンス)を取得する必要がある。

2020年現在では以下の2種類の生産者ライセンスが存在している。

  • スタンダードライセンス (Standard Cultivation License)
  • マイクロライセンス (Micro Cultivation License)

どちらも許可を得る為の条件はほとんど変わらないのだが大きな違いは作付面積である。

マイクロライセンスでは最大で200㎡までの作付けしか認められておらず、それ以上のファームを運営するにはスタンダードライセンスを申請しなければいけないのだ。

合法化当初 (2018年)

元々カナダの農業は規模によりスタンダードとマイクロに分けられていたのだが、2018年の合法化当時はまだカンナビス農家へのマイクロライセンス制度が認められておらず、合法化当時はCanopy Growth、Aurora Cannabis、Canna Farmsなどのスタンダードライセンスを持つ大手企業だけであった。

それらの巨大キャピタルを持った大手企業は急速にマーケットに進出していき派手な広告、ディスプレイでユーザーを魅了していった。

しかし肝心の中身が伴っていなかったのだ。

その理由は大手企業が実力のあるグロワーを確保出来ていなかった事にある。

昔からカナダで活躍している有名なグロワーは大手企業に利用される事を嫌い一緒に仕事をする事を避けている人も少なくなかったのだ。

ビジネスマンと手を組み一獲千金を狙うグロワーももちろんいるのだが、やはりそういったグロワーは多くはなかった。

スキルが高いグロワー、またカンナビスカップなどで入賞した経験があるグロワーなどは投資家たちの力を借りなくても合法化前からやってきたやり方 (ブラックマーケットなど) で十分に成功する事が出来るのだ。

またマスターグロワーなど主要なポジションに就くには犯罪経歴チェックをパスしなければならず、彼らの多くが大麻絡みの前科を持っているのも理由の1つである。

しかし2019年に政府がカンナビス農家にもマイクロライセンスを導入した事によって現在の状況は変化してきている。

現在の状況 (2020年)

マーケットはスタンダードライセンスを持った大手企業が中心となっている事に変わりはないが、全段落で述べたマイクロライセンスを取得し小規模な大麻栽培を始める大麻農家も増えてきている。

大麻栽培は農作業だ。

大きな敷地を用意し大量生産でグラム当たりの生産単価を下げるようとする大量生産農家、小規模で農作物1つ1つ丹精込めて生産するクラフト農家とビジネスの方針によってグロウの方法にも違いが見られる。

長年この業界にいるグロワーは大麻栽培について熟知しており、現在カナダ政府が求める施設の設備、衛生管理、品質管理に従っていたら最高のカンナビスを作る事は難しいという判断から合法マーケットへの参入を見送っている人もいた。

しかしこのクラフトライセンスの導入により小規模、少人数での運営が可能になり、その点を不安視していたグロワーのマ-ケットへの参入も最近になり徐々に始まっている。

Micro grow op

これからのカンナビスマーケット

これでカナダ政府の方針が定まったという訳ではない。

昨年のエディブル合法化時の「合法化2.0」 の様にカンナビスという新興産業でマーケットの成長がフェーズ分けされていて、この流れはまだまだ続いていくのだ。

僕もマーケットに参入しようとする方のサポートが出来る様にフェーズの移り変わりに関する情報には常にアンテナを張り巡らせてる。

カナダでグロワーとしてやっていこうと考えている人、これから大麻ビジネスを始めたいと考えている人は以下のポイントに注目すると良いかも知れない。

これらは僕の予想ではなく実際にニュース等でも発信され政府が既に動き出している事である。

  • マイクロライセンスを持った小規模農家がワイナリーツアーの様にファームでユーザーに直接販売出来るようになる
  • 多くの州で販売ライセンス発行数 (ディスペンサリーの数)の上限が撤廃される
  • エディブルを提供するカフェ、レストランの営業が許可される
  • カンナビスツアーに関する規制緩和

現時点でこれらの動きがはカナダ全体ではなく、州政府の独自の動きである事に注意してもらいたい。

他にも注意すべき点はありそれらの内容もマーケットの発展と共に急速に変わっているのでカナダでカンナビス事業を始める事に興味がある方は是非メールを頂ければと思う。

まとめ

日々変わり続ける状況を見極めながら自分のやりたい方向で進んでいくのは簡単ではないと思う。

大麻のお仕事」の記事でも紹介したようにカンナビスとの関わり方には色々あり、またその職種も様々である。

自分の将来の方向性が定まりそこへ向かう為の計画をたてたとしても次の日には規制に関する状況が変わっていて計画変更を余儀なくされることも珍しくない。

その都度いちいちストレスを感じていてはこのカンナビスマーケットで生き残っていくのは難しいだろう。

またライセンスに関しては販売、生産だではなく、研究開発、検査、品種開発などもそれぞれ別のライセンスが必要でどれもそれなりの資金が必要になってくる。

今後はそれらの各ライセンスに関する詳細、申請方法や条件、そしてこれからの対策などについても少しづつ書いていこうと思う。