イギリス発、カーボンニュートラルな大麻栽培が示す、日本の持続可能な農業への道

イギリスでのカーボンニュートラルな大麻栽培の成功事例は、日本における大麻(ヘンプ)栽培の将来にとっても重要なメッセージを伝えています。オリヴィエ・デオン氏が代表を務めるイギリスの企業Glass Pharmsが、世界で初めてカーボンニュートラルな屋内大麻栽培を実現したことは、エネルギー消費の削減と環境への配慮を両立させる新たな農業モデルの可能性を示しています。この革新的な取り組みは、エネルギー消費を大幅に削減しながら、増加する医療用大麻やカンナビノイドの需要に対応する1つの方法と捉えられており、再生可能エネルギーを活用(カーボンニュートラル)、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の原則に基づいて大麻栽培プロセスを設計することで、環境への影響を最小限に抑えることが可能であることを証明しています。

増加する医療用大麻とカンナビノイドの需要

医療用大麻とカンナビノイドの需要は急速に増加しています。2023年の最初の9ヶ月間にイギリスに輸入されたカンナビスは、約24トンに達し、2022年のほぼ3倍になりました。しかし、依然として供給に関する問題は残されたままとなっています。現在、イギリスの全ての医療用大麻が海外からの輸入で賄われており、イギリスの患者は供給不足という問題に悩まされています。これは、価値が高く、改善が可能な市場が未供給のまま放置されている状態ということができます。

大麻やカンナビノイドだけではありません。「イギリスにおける安価な農作物の入手は、スペインの海岸沿いにあるロス・プラティコス(ビニールハウス)やモロッコからの輸入を依存しており、これからも、これらの国や地域からイギリスが安価な農作物が輸入し続けられるという思い込みを持った人が非常に多い。」と、Glass Pharmsの渉外部を担当するMark Heley氏は語っています。これらの時給問題はイギリスだけでは無く、多くの食物を輸入に頼っている我が国日本も例外ではありません。

日本におけるエネルギー政策の課題

世界は現在、エネルギーコストの高騰という深刻な問題に直面しており、これは複数の要因によって引き起こされています。再生可能エネルギーへの移行は進み始めているものの、そのペースは十分ではなく、不安定な気候変動による影響も受けやすい状況にあります。さらに、近年の戦争などによる国家間の緊張の高まりは、エネルギー資源の供給に大きな不安定さをもたらし、日本のようにエネルギー資源のほとんどを輸入に頼る国にとっては、大きなリスクとなっています。

日本の場合、福島第一原子力発電所事故後の原発政策の見直しにより、国内のエネルギー供給体制は大きな課題となっています。日本でも医療大麻制度の導入や、これから始まると予想されるCBD市場などを考慮すると、これらの事は日本にとっても大きな問題であり、何らかの対策が必要になると考えられます。

このような背景から、世界の大麻栽培においては、高騰するエネルギーコストと環境への配慮をどのように両立させるかが大きな課題となっています。従来の大麻栽培方法は、大量のエネルギーを消費し、それに伴う高いカーボンフットプリントを生み出すため、持続可能な農業の観点から見直しが求められています。

現代の大麻栽培の問題点

大麻という植物は、ヒッピー文化やエコ意識の高い人々に愛されている傾向にありますが、必ずしも環境に優しいわけではありません。屋内で大麻を栽培し1kgの乾燥大麻を得るためには、約6,000kWhのエネルギーが必要(設備、栽培環境にも影響される)で、そのCFP(カーボンフットプリント)は1,400kgになると、EUの薬物監視機関である欧州薬物中毒監視センターの研究の中で示されています。これは、大麻を1/3グラム(0.33グラム)巻いた一本のジョイントが、ハイブリッド電気自動車を約3マイル走らせるのと同等のエネルギ消費量と言う事ができます。

またオランダでは、大麻栽培に起因する被害が甚大になっています。2021年にカンナビス栽培のために盗電された電気量は約10億kWhに達しており、これは65万人の都市ロッテルダムの年間家庭用電力需要に相当します。

カーボンニュートラルな大麻栽培

Glass Pharmsの施設全体には、イギリス国家が管理する電力網が一切敷かれていません。施設が嫌気性プラントの隣に位置しており、そこから全ての電力と熱が供給されています。また同社は、嫌気性プラントで燃焼されるメタンバイオガスから発生する二酸化炭素を集め、それを大麻に供給するシステムも開発中です。渉外部を担当するMark Heley氏は、「私たちが取り組んでいるのは、イギリス国内の大麻産業だけではない、より広範な問題です。それらは、エネルギーを大量に消費する農業を私たち人間がどのように運営していくかという問題に他なりません。」と述べています。

「エネルギー政策の転換」と「カーボンニュートラルな大麻栽培」の必要性

世界がエネルギーコストの高騰、気候変動の不安定性、そして国際情勢の変動という複合的な課題に直面している中で、持続可能な産業構造への転換が急務とされています。この状況下で、ヨーロッパで実施されているファストファッションの売れ残り品の廃棄を禁止する政策は、循環型経済の理念を実践し、産業全体の持続可能性を向上させる典型的な例です。この政策は、未使用の衣類が単に廃棄されるのではなく、再利用やリサイクルを通じて新たな価値を見出すことを奨励します。循環型経済とは、製品のライフサイクル全体にわたって資源を最大限に活用し、廃棄物を最小限に抑えることを目指す経済システムです。このアプローチにより、資源の有効活用が促進され、環境への負荷が軽減されます。

ファストファッション産業は、短い製品サイクルと大量生産により、大量の廃棄物を生み出し、環境問題の一因となっています。売れ残り品の廃棄を禁止することで、企業は製品の設計から生産、販売、廃棄に至るまでのプロセスを見直し、より持続可能な方法を探求するようになります。これにより、衣類が長く使用されるようになり、最終的には廃棄物の量が減少します。この政策は、資源を循環させることで廃棄物を減らし、製品の終わりが新たな始まりにつながるサイクルを作り出す、サーキュラーエコノミーの理念を具体的に示しています。

このヨーロッパでの取り組みは、日本におけるカーボンニュートラルなヘンプ栽培の推進という観点でも特に意義深いものとなります。エネルギー消費の削減と、環境保護を目指すヘンプ栽培の新しい方法を構築することは、ファストファッション産業における持続可能な取り組みと並行して、資源循環と環境保護の観点から重要なステップです。日本がこのような国際的な動向にならい、大麻栽培を含むさまざまな産業で資源の循環利用と環境保護を推進する政策を実施することは、持続可能な社会への転換を加速させるための重要な方策となるでしょう。このアプローチにより、日本は再生可能エネルギーの利用拡大と循環型経済への移行を通じて、エネルギー自給自足と環境負荷の低減を目指すことができ、またそれは、日本の麻文化の復興にも繋がる可能性があります。