2018年カナダは嗜好大麻を合法化させたが、そこに至る歴史の中には数多くのストーリーが存在する。
そして合法化された今でも更なる理想形を求め、自らの身を捧げ続ける活動家たちは新しいストーリーを生み出し続けている。
カナダの大麻活動家と言えばまずマーク・エメリーとそのパートナーのジョディー・エメリーを思い浮かべる人が多いだろう。
やはりこの二人のカリスマ性は大きく、カナダ国内でも圧倒的な認知度である事は間違いない。
しかし実は他にもその二人と同じ様に活動の中心に立ち、カナダの合法化推進派の人たちをリードし合法化の立役者となった人物がいる。
その人物の名前はダナ ラーセン (Dana Larsen)。
世界中で大麻合法化が盛り上がっている昨今、ご存知の方もいるのではないだろうか?
今回は彼の今までの活動を振り返り、大麻合法化へのヒントを考察してみたいと思う。
そして何とカンナビスジャパンセントラルはこの記事を書くにあたり本人と直接お話しする機会をいただいた。
現在の彼のプロジェクトの状況、そして日本の活動家の方たちへのメッセージもいただいたので記事の後半で紹介したいと思う。
ダナの人物像
カナダで最も有名な大麻活動家であり、世界中のドラッグ戦争を終わらせる為にハームリダクションというアプローチを提唱している最も有名な活動家の1人だ。
活動家であり、実業家であり、作家であり、政治家でもある。
カンナビスカルチャーマガジンの編集者も10年務め、またVancouver Seed Bank(バンクーバーシードバンク)の創始者でもある。
作家としては現在も活動中で著書にはHairy Pothead and the Marijuana Stone, Green Buds and Hash, The Pie-Eyed Piper, and Cannabis in Canadaなどがある。
対外的に最も目立つ活動としてはバンクーバーの420、カンナビスデー、など世界屈指の巨大マリファナイベントの主催者の一人でもある。
合法化前からの活動
彼ほど大麻合法化の為に自らの人生を捧げてきた人を探すのは容易ではない。
ハームリダクション活動家(大麻合法化活動を含む)、作家、政治家、そして人権活動家。
様々な顔をもつ彼だが全ては最初のハームリダクションというドラッグに対する新しいアプローチだ。
全て網羅すると長編小説になってしまうので、今回は彼の活動の中でも代表的なものにスポット当ててみようと思う。
The Medicinal Cannabis Dispensary
カナダで嗜好大麻が合法化される10年前の2008年にダナがバンクーバーで始めた医療大麻ディスペンサリーの名前である。
今では当たり前の様にあるディスペンサリーだが、カナダで1番最初に看板をだし営業し始めたのがこのダナのディスペンサリーだ。
もちろん違法であったがダナは医者の診断がしっかりとされた医療大麻を必要としていた人たちに大麻を安い値段で抵抗し続けた。
また過去に戦争に行きPTSDに苦しむ元軍人の人々、ホームレス、また大麻を買うお金がない人たちに無料で提供する事もしていた。
しかしニュースでも伝えられたが、2019年6月にバンクーバー市の命令により遂にその歴史ある店舗は幕を下ろす事になってしまった。
本人はその命令が納得できなかったので営業の継続考えたそうだが、いま逮捕される事は得策ではないという判断から1時的な閉店を決めたようだ。
今まで逮捕されることも恐れず行動してきた彼がとった事なので、きっとこの先のプロジェクトを考えての行動だろう。
またダナはバンクーバーで他の場所にもディスペンサリーを経営しているので、そちらから今でも商品の購入は可能である。
OverGrow Canada
OverGrow Canadaとは、ダナが合法化前の2016年に始めたプロジェクトの1つで現在進行中のものでもある。
大麻は権力に管理されるものでは無く誰でも自由にアクセスできるべき植物だという彼の意見に賛同する人たちに、無料で100粒の大麻の種を配布し野生の大麻を増やそうというプロジェクトである。
初年度はダナ本人がカナダ全土をまわりながらSNSで行き先を拡散し、そこに集まった人たちに種を渡していった。
カナダでは彼の意見に賛同するものが多く、行く先々では沢山の人が彼の種を受け取るために集まったのだ。
しかしそれに目を付けたのはやはり警察だった。
ツアー先のカルガリーでダナは逮捕されてしまったのだ。
しかし解放されたダナはそのツアーを中断することはなく最後までやりきってしまったのだ(詳しくはインタビューの中で)。
今年2019年は彼のオリジナルでCBD品種であるFreedom Dreamという品種の種を配った。
また彼は大麻だけではなく、全ての薬物は誰でも使えるようにするべきで、正しい薬物教育こそが被害から守る最良の方法と考えるハームリダクションーという考えの持ち主でもある。
そんな考えからOverGrow Canadaではケシの種も配布している。
今年の分はすでに終了しているので興味のあるカナダ在住の方は来年またホームページをチェックしてみよう。
SensibleBC
政治家でもあるダナが、ブリティッシュコロンビア州のドラッグポリシーのリフォームの為に始めたキャンペーンである。
2013年、警察の大麻の犯罪の取り締まりに関する国民投票を政府に要求するための署名集めを行った。
国民投票を政府に要求するためには90日以内に40万人の署名を集める必要があったのだが失敗に終わった。
SensibleBCは活動家グループの中でのリーダーシップトレーニングコースやの提供や、大麻合法化に賛成する人たちを集めての講演など活動家を育てる活動にも力を入れていた。
当初の目的であった嗜好大麻の合法化は2018年に達成されたが、現在も理想の合法化の形を目指して活動中である。
新しい活動
マジックマッシュルームDispensary
最近になってダナが始めたプロジェクトであるマジックマッシュルームの販売。
これは嗜好目的ではなく、マジックマッシュルームの成分であるサイシロビンをごく少量のみ接種し鬱、不安、または睡眠のパターンなどを改善する為のマイクロドージングという治療のために販売されている。
サイシロビンのマイクロドージングが効くと言われている症状は色々あるが、それらの症状が証明できる医師からの診断書があれば誰でも購入することが出来る。
前記した通り、ダナはドラッグ被害を最小限にする為にハームリダクションという考えを提唱している。
全てのドラッグは個人が自由にアクセスできるようにするべきであり、その為に正しいドラッグ教育が不可欠であるという考え方である。
このマジックマッシュルームの販売もそんな考えから生まれたプロジェクトだ。
無料ドラッグ品質チェック
Get Your Grugs Testedという名前でスタートしたこのプロジェクト。
ブラックマーケットやストリートの売人から買ったドラッグを無料でチェックして、フェンタニルが混入させてあるドラッグなどからの被害から人々の命を守るための事。
日本だと多くの人はドラッグ入手の経路を断つように考えるが、ハームラダクションのアプローチではそれらのドラッグの恩恵を認め、それらを正しく知る事により被害も最小限に抑える事が出来るという考えるのである。
手に入れたドラッグを少しだけサンプルとして送ればあとは週間後に結果が出る。
インタビュー
幸運にも今回カンナビスジャパンセントラルのインタビューに本人が直接答えてくれた。
メディア上でも見ることが出来るように、とても紳士的で親切な態度で僕の質問1つ1つに時間をかけて答えてくれた。
Cannabis Japan Central (CJC) : こんにちは。カンナビスジャパンセントラルのしんじと申します。今日は時間をとってくれてありがとうございます。
Dana : こんにちは。こちらこそ声をかけてくれてありがとうございます。今回あなたと話せることを嬉しく思います。
CJC : カナダでは去年2018年に嗜好大麻が合法化されましたが、まずその事についてあなたの意見を聞かせてください。カナダの合法化はうまくいったのでしょうか?
Dana : そうですね。カナダの合法化については様々な意見がありますが、私は現在のカナダのカンナビス法は世界でもトップクラスの良さだと思っています。しかし改善しなければならない点はまだ沢山あります。大麻へのアクセスも限定的で制限されており、満足できる法律とは言えないですね。
また大麻生産者(ライセンスプロドューサー)になる為のライセンスを取得するのは非常に難しく、それが原因でマーケットは品不足の状態が続いています。購入には税金がかかるので商品の値段はとても高く、それなのに品質はあまり良くないというのが現状です。アルコールに比べて罰則の種類も多く、自家栽培も4株までしか許されていません。もちろん違法である事よりはマシですが、それでも個人の使用量として十分とは言えません。
CJC : なるほど。まだまだ改善されなければいけない点は沢山あるんですね。次はあなたの活動について教えてください。合法化の数年前に大麻の種を無料で配って自生大麻を増やそうというOverGrow Canadaというプロジェクトをスタートさせましたね。その時のみんなのリアクションを教えてください。結果はどうでしたか?
Dana : OverGrow Canadaは2016年にスタートしました。現在も継続中で今までに1000万個の大麻の種を無料で配ってきました。種の譲渡は違法なのですが現実に警察が動くことはほぼありません。実際に合法化のかなり前からカナダ国内では多くの店が種の販売をしていましたし、特に大きな問題もありませんでした。
でも初年度2016年のツアーの時の警察の態度は違いましたね。SNSで行き先を公開しながらツアーをしていたのですが、カルガリーで遂に逮捕されてしまいました。1晩は牢屋で過ごしましたが翌日解放されそのままツアーを続行しました。その後、警察が私を追いかけてくるような事はありませんでした。
それで翌年の2017年も同じことをしましたね。もちろんカルガリーにも戻りました。この年は前年の教訓から何百人というサポーターがカルガリーの私の元に私を守る為に集まってくれました。だからカルガリー警察はこの年は何もしない事に決定するしかなかったようです。この頃まだ2016年の逮捕の件の裁判もやっていたんだけど、裁判があまりにも長くなった事と政府の弁護士が遅れてきた事なんかもあって、最終的には裁判が取り下げられたよ。
CJC : そうだったんですね。自らを犠牲にするその活動の姿勢はどこから出てくるんでしょうか?最近はマジックマッシュルームのディスペンサリーなども始められましたが、逮捕される事への恐怖心とかは無いんですか?どうしてそんな事が出来るんですか?
Dana : もちろん逮捕されるという恐怖は常にあります。特にこのプロジェクトに関してその心配も大きいです。正直言ってうまく行く事を願いながらやっているような状態ですね。嗜好目的の販売ではなく、あくまで医療目的のマイクロドーズでの販売なのでその辺りを政府も理解してくれる事を期待しています。10年も前にカナダ国内で最初のディスペンサリーを始めた時もこんな気持ちでした。
CJC : まだまだ戦いは続いているんですね。昔に比べ日本でも最近は大麻合法化活動が活発になってきていてますが、所持などで逮捕される人の数も増加しています。また医療大麻制度も導入されておらず、つい先日サティベックスの治験がスタートしたところです。やはり罰則が重いのでカナダの活動家の様には動くのはなかなか難しいと考える人が多いようです。どうしてカナダ政府は合法化前に大麻に関する取り締まりを緩めていったんですかね?
Dana : カナダでも医療目的で大麻を使用し数多くの人たちが逮捕されたました。その人たちが立ち上がり、裁判で戦うところから全てが始まりました。長い年月が掛かりましたが、一人また一人と裁判で認められるケースが出てきだしてそれが最後には数千件となったんです。最終的には裁判所からの命令で政府は医療大麻制度を導入し、少しずつ改良していくしかなかったのです。
CJC : 政府ではなく裁判所の判断に寄るもんだったんですね。もう少し合法化活動について質問させてください。日本の活動家の中には、まず医療大麻の合法化に集中すべきで嗜好大麻の議論はその後だいう意見がよく聞かれるのですが、その事についてはどう思いますか?
Dana : 私は世界中、誰でも自由に大麻にアクセス出来るようになるべきだと思っています。しかし医療大麻の合法化こそが、最終的な大麻の完全な開放への第一歩だと信じています。大麻の医療効果を出来るだけ多くの事に伝える事こそが合法化への近道だと思いますよ。
CJC : カナダは簡単に合法化を成し遂げたようにも見えますが、やはり物事を変えていくには一歩づつなんですね。ダナさんは日本に行った事はあるんですか?
Dana : 世界中の色んな国々に行ったけど日本へはまだ行った事がないんです。私がカンナビスカルチャーマガジンの編集をやっていた時に日本の大麻文化の特集を組んだ事があるんですが…「Dosanko」でしたっけ?もし機会があったら是非行ってもっと日本の大麻文化について学べたらと思います。
CJC : もし日本に行く事があればCJCがツアーを全面的にサポートします。きっと日本でDanaさんに会ってみたい人たちも沢山いますよ。
最後の質問なんですが、何か日本の活動家の方たちへメッセージはありますか?
Dana : 日本の厳しい大麻取締法と戦い続ける活動家の方たちに敬意を表します。合法化の時は必ずやってきます。どうかその瞬間まで勇敢に戦い続けてください。そして間違った意見に腹を立て間違った行動を起こさない様いつも正しく堂々といてください。
皆で団結し行うCivil disobedience(市民的不服従)こそが自分たちの理想とする世界を作る上で、また法律を変えていこうとする上では必要不可欠で最もt効果的だと思います。全員がそれぞれ違うリスクをとり行動しなければ光は見えてきません。これは世界中で巻き起こっている戦いです。私たちの思いは1つです。カンナビスとカンナビスを必要としている人の為に一緒に頑張っていきましょう!
まとめ
今回の取材が決まった瞬間、僕の心は踊った。
僕のヒーローの一人であるDana Larsenと話すことが出来て、大きな刺激をもらえたのはもちろん、自分の大麻への愛を再確認することが出来た。
日本とカナダでは法律も事情も違うので同じアプローチをしていれが大麻が合法化されるわけではないだろう。
でも今回のインタビューが日本で大麻合法化活動をされている方、また興味のある方たちへのカンフル剤に少しでもなればいいと思う。