大麻合法化後、未成年にとって大麻の入手が困難に- カナダの研究で明らかに:日本の市販薬過剰摂取問題との関連性 / Uncategorized / By Shinji Ukita 先日、アメリカで最も人気のある大麻メディアの一つであるMarijuana Momentが、カナダにおける合法化後の大麻の入手性についての記事を掲載しました。その内容は近頃日本で問題となっている市販薬・処方薬の過剰摂取問題に共通するところがあり、ここで検証してみたいと思います。 カナダでは嗜好大麻の合法化が2018年に行われて以来、その結果として高校生の間で大麻の入手が難しくなっていることが最近の研究の結果により明らかになりました。この研究は、カナダの複数の州における高校生を対象に行われ、大麻の合法化とそれによるディスペンサリーの出現が、若者たちの大麻へのアクセスにどのような影響を及ぼしているのかを調査しています。一方、日本では市販薬の過剰摂取が深刻な問題となっており、特に若者の間で救急搬送されるケースが相次いでいます。これら二つの国の状況を比較し、薬物乱用対策について見ていきたいと思います。 カナダ大麻合法化の背景 カナダの嗜好大麻の合法化は、国際的に見ても注目される政策であり、その背景と目的は多岐に渡ります。カナダは、2018年に成人用の嗜好大麻の使用の合法化を行なった世界で2番目の国であり、先進国としては初めての試みでした。 カナダにおける大麻合法化の背景には、複数の要因が絡み合っています。まず、長年にわたり大麻を非合法なものとしてきたことによって、多くの社会的、または経済的コストを生み出していました。ブラックマーケットの存在は犯罪組織の資金源となり、警察や司法システムに大きな負担をかけていました。また、大麻使用に関連する逮捕や有罪判決は、若者や少数民族に対しネガティブな影響を与え、彼らの将来に長期的な悪影響を及ぼしていました。 また、医療目的での大麻使用に関する研究が進む中で、その有用性が広く認識されるようになった事も大きな要因の一つでした。痛みの管理、てんかん、多発性硬化症などの症状の緩和に大麻が有効であることを示す複数の研究結果が、カナダの大麻政策変更の議論を加速させました。 カナダ政府が大麻合法化を推進した大きな目的は、大麻の使用と供給を規制し、公衆衛生と国民の安全を保護することにありました。これにより、政府は大麻製品の品質を管理し、未成年者へのアクセスを制限し、消費者に安全な製品を提供することが意図されていました。また、合法市場の創出は、ブラックマーケット(非合法市場)を縮小し、犯罪組織の収入源を断つことも見据えて行われました。公衆衛生の観点から、大麻に関する正確な情報提供や教育が可能になることにより、使用者が安全な環境で大麻を購入し使用できるようになることにより、大麻に関連する健康被害を減少させ、依存症やその他の問題の予防と治療が可能になることが期待されています。 この様に、カナダの大麻合法化は、犯罪の減少、公衆衛生の向上、経済的利益の増大という複数の目的を達成するための段階的な政策であり、規制の緩和や変更は現在も進行中のプロセスです。この政策は、大麻に対する社会的な変化と、より広範な医療および嗜好用途への導入を促進しており、タイ、ドイツ、イスラエル、イギリスなどの他国が同じ道をたどる際に、重要な道標となっています。カナダの大麻政策は一国によって作られたものではなく、国連やWHOなどの国際情勢を鑑みており、今後アメリカなど世界各地で大麻の合法化が本格的に行われる際の基準となると考えられています。 日本の市販薬濫用の背景 日本での市販薬乱用問題は近年深刻化していますが、その背景には長い歴史があります。市販薬の容易な入手性、乱用に対する認識の低さ、そして社会的・心理的要因が複合的に絡み合っていることが、この問題の背景となっています。 この問題は特に高度経済成長期以降に顕著になりました。この時期、日本経済の急速な発展とともに、医薬品市場も拡大しました。1950年代〜1970年代の日本は労働集約的な産業構造と、長時間労働が常態化しており、多くの労働者が過度なストレスや疲労にさらされていました。これにより、ストレス緩和や睡眠のため、またはリラックス効果を市販薬に頼る人が増えました。さらに、当時は医薬品に関する情報が限られており、薬の副作用や依存性に対する一般の認識が不十分でもありました。 それと同時に、当時の日本の人々は、経済発展に伴う社会の急速な変化も経験していました。急激な都市化、家族構成の変化、教育や就職の競争の激化など、多くの社会的ストレスが生じていました。これらの変化は、人々の生活様式や健康に大きな影響を与え、市販薬の乱用という形で表れることとなりました。この時期の市販薬乱用問題は、現代の医薬品オーバードーズ問題への背景として重要な意味を持っており、人々の間で医薬品の安全性や適切な使用法に関する認識を高め、社会的ストレスに対処するための健康的な対策を模索する必要性を示しています。 カナダの大麻入手性に関する研究 カナダで行われた大麻合法化後の「高校生の大麻入手難易度に関する研究」は、公衆衛生政策の影響を評価する上で重要なデータとなっています。この研究は、カナダの大麻合法化が若年層の大麻アクセスにどのような影響を与えているかを調べることを目的としています。 研究では、ブリティッシュコロンビア、アルバータ、オンタリオ、ケベックの各州にある中等教育学校の9年生から12年生を対象に、大麻の入手可能性に関する調査が行われました。調査期間は2018年から2021年にかけてで、大麻合法化の影響を評価するため、学生たちに「大麻を手に入れるのが難しいか?簡単か?」という質問がされました。 研究の結果、大麻を簡単に手に入れることができると答えた学生の割合は、2018年から2021年の間に51.0%から37.4%へと減少しました。これは、全体としても26.7%の減少となります。また、過去1ヶ月以内に大麻を使用したと報告した学生の割合も、同期間中に12.7%から7.5%へと減少しました。 この研究は、大麻合法化が未成年者の大麻アクセスを制限する効果があったことを示唆しています。合法化により、大麻の販売が規制され、未成年者への販売が厳しく制限されたことが、未成年者の入手難易度の増加に寄与したと考えられます。また、合法化に伴う教育と啓発活動が、若者の大麻に対する認識を変え、使用を抑制する効果をもたらした可能性もあります。ただし、このような研究には限界もあります。自己報告に基づくデータのため、回答の信憑性には疑問が残ります。また、大麻の入手難易度の変化が合法化の直接的な結果であるかどうかを断定するには、Covid-19のパンデミックの様な他の要因を排除する必要もあります。 日本の市販薬OD問題 日本における市販薬の過剰摂取問題は、医薬品乱用が社会的な健康リスクとして認識されていることを示唆しています。市販薬は広く利用されており、多くの場合、処方箋なしで容易に入手できる点が、この問題を悪化させています。鎮痛剤、風邪薬、睡眠薬などの乱用は、特に若者の間で増加しており、過剰摂取による健康リスクが高まっています。 市販薬の乱用は、しばしばストレスや精神的な問題から逃れる手段として利用されています。学業や職業上の圧力、人間関係のストレスなどが原因で、若者がこれらの薬に頼ることがあります。インターネットやSNSを通じて、特定の薬の乱用方法や効果に関する情報が拡散されることも、この問題を悪化させています。 この問題に対処するためには、市販薬の販売と使用に関してより厳格な規制が必要であると考えられ、若者が容易にアクセスできないような措置が求められます。また、市販薬の適切な使用とリスクに関する教育と啓発活動を強化することも重要です。ストレスや精神的な問題に対処するためのサポート体制の充実も必要であり、特に若者が健康的な方法でこれらの問題に対処できるような環境が求められます。市販薬の乱用問題は、医薬品の問題にとどまらず、社会的な問題として捉える必要があります。適切な対策を講じることで、この問題の深刻化を防ぎ、より健康的な社会を築くことができます。 両国の薬物対策 カナダの薬物乱用対策は、以下の4つの主要な柱を基盤としています。 画像出典:Government of Canada 予防と教育: 薬物乱用の防止、軽減に向けた啓発 エビデンス: 研究とデータ収集により、薬物関連政策をサポート 薬物使用者へのサポート: 薬物使用者に対する一連の治療、ハームリダクション、回復オプションの提供 物質のコントロール: 公衆衛生および安全リスクに対処するための法規制の整備 カナダの薬物対策は、薬物使用を健康問題の一環として扱い、利用者に対して思いやりと尊敬を持って対応しています。 その一方、日本では、薬物使用は主に刑事問題として扱われ、撲滅に重点が置かれています。日本の薬物政策は、使用者への取り締まり、売買や密輸防止、国際協力に焦点を当てています。しかし、薬物使用者へのサポートは不十分であり、ハームリダクションの導入にも反対の姿勢を示しています。また、日本の薬物政策は、厳罰主義に基づいており、日本の刑務所人口の約25%が薬物犯罪に関連するものとなっています。しかし、効果的な治療やサポートの提供が不足しており、重い刑事処罰が適用されていますが、薬物犯罪者の大部分が再犯者となっています。北米やヨーロッパ諸国と比べ、日本では薬物使用を健康問題として理解する視点が欠如していると言うことができます。 カナダのアプローチは、薬物使用を健康問題として捉え、対応しているのに対し、日本は薬物使用を刑事問題として扱い、厳罰化に重点を置いています。2024年から施行が予定されている大麻の使用罪もその一つであると考えられます。カナダのアプローチは、薬物使用者への支援と社会復帰の可能性を高めることで、薬物乱用のリスクを減少させる可能性があります。一方、日本のアプローチは、薬物使用者を刑務所や少年院に送り込むことで、社会復帰の機会を制限し、長期的な解決には至らない可能性があります。これらの違いは、薬物乱用に対する文化的、社会的な見解の違いを反映しているものであると考えられます。 両国への対策提案 日本: 薬物使用を健康問題として理解し、使用者に対する治療とサポートの提供を強化する必要があるでしょう。また、ハームリダクションの導入を再検討し、薬物依存症に対する包括的なアプローチを採用することが求められます。 カナダ: すでに薬物使用を健康問題として捉えていますが、さらに治療と回復プログラムへのアクセスを拡大し、特に社会的に脆弱な集団への支援を強化することが重要です。 両国の薬物乱用対策は、それぞれの社会的、文化的背景に根ざしており、一方のアプローチが他方よりも効果的であると一概に言うことは困難です。しかし、カナダのように薬物使用を健康問題として扱い、使用者への支援と理解を強化するアプローチは、薬物乱用の問題をより持続可能な方法で解決する可能性があります。 Reference: わが国における市販薬乱用の実態と課題「助けて」が言えない子どもたち、Ritsumeikan University「1960年代の医薬品が置かれた状況を事例から明らかにする」、IDPC「Drug use, regulations and policy in Japan」、National Geographic「Is pain relief from cannabis all in your head?」、Marijuana Moment「High School Students Say Marijuana Is Harder To Access Following Legalization For Adults, Canadian Study Shows」、BioMed Central ltd.「Youth perception of difficulty accessing cannabis following cannabis legalization and during the early and ongoing stages of the COVID-19 pandemic: repeat cross-sectional and longitudinal data from the COMPASS study」