国際的な薬物政策との調和 日本の大麻取締法改正への道筋とグローバルな視点

国際連合INCB(国際麻薬統制委員会)の2023年度の年次レポートが発表されました。この中で、国際連合(UN)の薬物管理機関は、医療や科学目的以外での大麻の合法化は国際条約に違反するとの見解を繰り返し表明しています。この件に関して、先日MjBizのジャーナリストであるMatt Lamersが以下のようなツイートをしています。

“In its annual report, the UN’s INCB appears to be reminding countries that international law (1988 Convention) “requires the criminalization” of cannabis cultivation “for the purpose of the production of narcotic drugs contrary to the provisions of the 1961 Convention”

これは、国際連合INCB(国際麻薬統制委員会)の年次レポートに関するもので、今年のレポートの中で、各国に対し、1961年条約が大麻栽培を犯罪化する事を要求しているという点について再度喚起していているという事について触れているものです。

また、アメリカの別の大麻メディアMarujuana Momentも、「UN Body Reaffirms That Marijuana Legalization Violates International Treaties, While Addressing Germany Cannabis Reform And U.S. Psychedelics Movement」というタイトルで、ドイツの大麻合法化やアメリカでのサイケデリックに対する政策の変化などを含めて同様の件について報じています。

Marijuana Momentの報道内容

国際連合(UN)のINBCは、医療や科学目的以外での大麻の合法化は国際条約に違反するとの見解を繰り返し表明しています。しかし、最近の投票に先立ち、ドイツ政府が嗜好大麻の合法化計画を縮小したことについては評価しているとも述べています。この世界的な麻薬機関は、米国におけるサイケデリックス政策の改革にも注目しています。

国際麻薬管理委員会(INCB)は、1961年に遡る単一条約に基づく各国の義務を理由に、大麻合法化を許可する国々を定期的に批判してきました。ドイツが大麻合法国の一つとなり、アメリカが大麻とサイケデリックスの改革に向けて動き続ける中、INBCは再び失意の念を表明しています。

INCBの2023年の年次報告書は、加盟国が大麻のような薬物の「生産、製造、輸出、輸入、流通、取引、使用、所持」を犯罪化するために必要な立法的及び行政的措置を講じることを義務付けていると強調しています。

同報告書は、ドイツでの大麻合法化の取り組みや、米国での連邦大麻所持犯罪に対するジョー・バイデン大統領の大量赦免が正式に実施されていることにも言及しています。さらに、米国内でのサイケデリックス政策の進展や、オレゴン州におけるシロシビンサービスの合法化、コロラド州でのより広範なサイケデリックスの合法化も監視していると述べています。

カナダでの大麻合法化への経緯

2018年10月17日、カナダは一定の条件のもとで嗜好用大麻の使用を合法化しました。この決定は、医療用大麻に関しては既に合法とされていた背景があります。カナダにおける嗜好用大麻の合法化は、長年にわたる社会的議論と政策変更の結果でした。この過程は、公衆衛生、犯罪率、経済的利益、および個人の自由に関する様々な観点からの議論を含んでいました。
1990年代から2000年代にかけて、カナダでは医療用大麻に関する法律が緩和され始めました。これは、大麻が持つ医療的価値に対する認識の高まりと、患者の権利を支持する社会的動きによるものでした。しかし、嗜好用大麻に関しては、公衆衛生の観点からの懸念、特に若者への影響や運転時の安全性などが、合法化に向けた議論を複雑にしていました。
2015年の連邦選挙で、ジャスティン・トルドー率いる自由党が勝利し、大麻合法化を公約として掲げたことが、政策変更の大きな転換点となりました。トルドー首相は、大麻の非合法化が若者を守るどころか、犯罪組織の利益を増やし、警察や司法システムに不必要な負担をかけていると主張しました。
2017年4月、カナダ政府は嗜好用大麻を合法化する法案を提出しました。この法案は、大麻の生産、販売、所持に関する規制を設定し、特に未成年者への販売を厳しく禁じる内容でした。法案は、議会での激しい議論と修正を経て、2018年6月に上院で承認され、同年10月17日に施行されました。
合法化に向けた議論では、大麻の合法化が公衆衛生に与える影響が繰り返し問題とされました。支持者は、合法化によって大麻の品質を管理し、未成年者へのアクセスを制限することができると主張しました。一方で、批判者は、合法化が大麻使用の増加を招き、特に若者の健康に悪影響を及ぼす可能性があると警告しました。
経済的な側面も重要な議論のポイントでした。合法化により新たな産業が生まれ、税収が増加するという見方がありましたが、一方で、社会的コストの増加や、大麻関連の事故や健康問題による負担も懸念されました。

国際条約との対立

カナダが2018年に嗜好用大麻を合法化したことは、国際的な薬物規制条約との明確な対立を生じさせました。特に、1961年の単一麻薬条約、1971年の向精神薬条約、1988年の麻薬および向精神薬の不正取引に対する国際条約との間で、カナダは法的な義務を負っていました。これらの条約は、加盟国に対して大麻を含む特定の薬物の製造、販売、所持、使用を厳しく制限することを義務付けています。 カナダは、これらの国際条約に違反する形で大麻を合法化し、国際法の原則に反する行動を取ったとして批判されました。国際麻薬統制委員会(INCB)は、カナダの大麻合法化に対して「深い懸念」を表明し、カナダの行動が国際薬物規制条約との整合性を欠いていると指摘しました。

カナダと国連・WHOとの対話

カナダは、国際薬物規制体制における自国の立場を調整するために、国連やWHOとの対話を行いました。しかし、これらの対話の具体的な内容は公開されていないため、詳細は不明です。カナダの副首相Chrystia Freelandは、新しい大麻法が選択的に条約を違反していることを認めつつ、カナダのアプローチがこれらの条約の「全体的な目標、すなわち社会の健康と福祉を守ること」と一致していると述べました。

国際的な反応としては、特にロシアがカナダの大麻合法化に対して強い圧力をかけているとされ、ロシアは西側諸国の「ルールに基づく国際秩序」に対する偽善を指摘し、西側諸国間の分裂を煽る機会と見なしていると報告されています。

国際法との整合性

カナダは、国際法との整合性を保つためにいくつかの選択肢を持っていました。これには、条約内での改革の開始、条約からの脱退と再加入に際しての留保の提示、または条約からの正式な脱退などが含まれます。しかし、カナダはこれらの選択肢を行使することなく、大麻を合法化しました。
国際法と国内法の関係は、国際法の原則に基づいて理解されます。国際法における主権の原則は、国家が自国の法律を制定する自由を持つことを認めていますが、同時に国際条約によって設定された義務を尊重することも求められます。国際薬物規制条約は、加盟国が大麻を含む特定の薬物の製造、販売、所持、使用を厳しく制限することを義務付けており、これらの条約は国際法の一部として加盟国に適用されます。
カナダの大麻合法化は、国際法の原則との関係で注目されました。国際法の下では、国家は条約を遵守する義務がありますが、国内法の変更によって条約の義務を満たさない場合、国際法違反となる可能性があります。カナダは、大麻合法化によって国際薬物規制条約の義務を満たしていないと見なされる可能性がありますが、国内法の変更を通じて公衆衛生と社会の安全を守るという条約の全体的な目標に沿っていると主張しています。
国際薬物規制条約の適用範囲には、例外条項が存在する場合があります。例えば、医療や科学研究の目的での使用は、一定の条件下で許可されています。しかし、嗜好用大麻の合法化は、これらの条約が想定している例外範囲を超えるものであり、国際法の枠組み内での合法化の正当性について議論を呼び起こしました。
カナダは、国際法との整合性を図るために、条約からの脱退や改正などの選択肢を持っていましたが、これらの選択肢を行使する代わりに、国内法を変更して大麻を合法化しました。この決定は、国際法における主権と国内法の関係、および国際法の原則とのバランスを取ることの難しさを示しています。国際薬物規制条約の適用範囲と例外条項に関する議論は、他の国々が薬物政策を再考する際の重要な参考点となるでしょう。

日本での大麻取締法の改正に伴うグローバリゼーション

日本政府が大麻取締法の改正を進める中で、CBD製品の市場を拡大し、事業者が安全に事業を運営できるような法整備を行うことは、国内の産業発展にとって重要なステップです。しかし、北米やヨーロッパの基準にならい最大で0.3%のTHC含有を許容する案については、国際的な薬物規制の枠組みを考慮する必要があります。日本政府が国連やWHOなどの国際機関に対して配慮すべき点は以下の通りであると考えられます。

  1. 国際薬物規制条約の遵守: 日本は1961年の単一麻薬条約などの国際薬物規制条約の加盟国であり、これらの条約はTHCを含む大麻の製造、販売、所持、使用を厳しく制限しています。改正案が国際条約に違反しないよう、THC含有量の許容範囲を設定する際には、条約の規定を慎重に検討する必要があります。
  2. 国際機関との対話: カナダの例のように、大麻政策の変更を行う際には、国際麻薬統制委員会(INCB)などの国際機関との対話を通じて、改正が国際的な薬物規制体制に与える影響を共有し、理解を求めることが重要です。
  3. 国際基準との調和: 他国ではTHCの含有量が一定基準を超えなければ合法とされている場合がありますが、日本が国際基準と調和を図るためには、WHOが推奨するTHC含有量の基準や、他国の法律との比較を考慮することが必要です。
  4. 国際的な取引と規制: CBD製品の国際的な取引が増加する中で、日本の法律が国際的な商流に適合しているかを確認し、国際市場での競争力を保つための規制を検討する必要があります。
  5. 公衆衛生への配慮: WHOは公衆衛生の観点から薬物政策を評価します。日本政府は、THC含有量の許容によって公衆衛生に悪影響が出ないよう、科学的根拠に基づいたリスク評価を行う必要があります。
  6. 国内法と国際法の整合性: 日本国内での法改正が国際法と整合性を持つように、国際法の専門家との協議を行い、必要に応じて国際条約の改正や留保の申請などの手続きを検討することが求められます。

Reference: INCB「Report of the International Narcotics Control Board for 2023」、Marijuana Moment「UN Body Reaffirms That Marijuana Legalization Violates International Treaties, While Addressing Germany Cannabis Reform And U.S. Psychedelics Movement」、Canadian Lawyer「International law experts say legal cannabis defies Canada’s UN treaty obligations」、NCBI「International legal barriers to Canada’s marijuana plans」、参議院「調査室作成資料」、厚生労働省「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律の成立について」衆議院「第3号 令和5年11月10日(金曜日)」